狼 の 皮 を か ぶ っ た 羊





ここは動物達が暮らす国
ライオン、白鳥、ウサギ、ねずみ、猫・・・色々な種類の動物が居て、色々な性格の生き物が居た
そんな国に住む一匹の、貴方の隣に居るかもしれない、(もしかしたらあなたかもしれない)、小さな羊の、物語。




羊はとても優しい子でした
その優しい性格で他人に騙されて傷つくこともありました
羊はその度にたくさん泣いて、泣き止むと思いっきり笑って
かしこい羊は、どうしたら1番良いのかを知っていたのです



「わ、何だろうこれ」
ある日羊が歩いていると、茶色の仮面を見つけました
それは羊が何度か目にしたことのある、強そうな狼の顔です
小さな羊は落ちていた狼の仮面を広い、何のためらいもなくそれをかぶったのでした
そのまま歩いていると、また他の動物に傷つけられることがありました
悲しくて悲しくて、小さな羊はうずくまり声を上げて泣きました
しばらくすると、近くに居た動物が心配そうにやってきて
「大丈夫?」
そう優しく声をかけました
小さな羊がその声を聞き顔をあげると、その動物は
「よかった、泣いてないなら大丈夫よね」
そう言って去っていきました

「え?」
羊は不思議に思って目のあたりを押さえてみると、あんなに泣いたはずなのに目は濡れていません
狼の仮面が、羊の涙を閉じ込めていたのです
外に出る事ができない涙は、悲しみのまま小さな羊の心に残っていました
羊はどうする事もできず、ただ心に痛みを抱いたまま、うつむきました



何日かたって、同じ事が何度も起きました
その度に羊は涙を出そうとしましたが、以前のように涙は流れる事はありませんでした
あの小さな羊はもう小さくはなく、立派に成長しました
狼の仮面はつけたまま、悲しみは悲しみのまま羊の心を苦しめていたのです


羊は思いました
「私はもう羊じゃない、狼なんだ。強い狼なんだ」
周りからも「強い狼」として思われ、自分も強くなくちゃいけないと信じていました
何度も狼の仮面を取ることを考えましたが、その度に「強い狼なんだから」と言われるので、
羊は仮面に手をかけることをやめ、いつまでたっても取れずにいました
かしこい羊は泣くことをやめ、悲しみを自分の中に留めたまま生きていくことを決心しました
「期待は裏切っちゃいけない。・・私は強いのだから、できる」
そう信じて




羊が狼の仮面をかぶった日のことを忘れかけた頃、また悲しいことが起きました
だけど羊は立ち止まることなく前を向くと歩き出しました
心から溢れ出す形とならない悲しみを引きずりながら、
「私の気持ちなんて誰にも分からない。・・・私が誰かの気持ちなんて分からないように」
羊はとても悲しくなりました
これから先、どんなにどんなに進んでも誰も自分の気持ちを理解してくれなくて、
誰の気持ちも理解できないんだと思うと、・・・悲しくて
だけど羊は、泣くこともつまづく事も、振り返る事さえもできずに歩きました



「ねぇ、羊」
気がつくと隣に狼がいました
「何かあった?」
狼は羊に尋ねました
「何もないよ」
羊は狼の目を見ずにそう言って微笑みました
「・・・・・ねぇ、羊」
「ん?」
「僕ね、羊の子と好きだよ。でも、無理してる羊は、好きじゃないよ」
羊が驚いて顔を上げるのよりも狼が羊を抱きしめるのが早くて
羊はその言葉を理解するのに少し時間がかかりました


狼は言いました
「羊は無理しすぎだよ・・・・・無理に作った笑顔を見て喜ぶやつなんていないよ?」
驚いた羊の顔が面白い、そう言って少し笑って
「・・・・・・だから、さ。羊は羊のままで、・・そのままでいいんだ・・」
狼は羊を愛しそうに抱きしめて、言いました
その言葉一つ一つをかみ締めるように理解した羊は、いつのまにか涙を流していました
忘れたはずの、懐かしい涙
「・・・・・・その仮面、とりなよ」
そういって狼は羊がかぶっていた仮面をめくり、溢れ出してくる涙を拭いながら笑いかけました

「やっと。本当の羊に会えた」

羊は初めて、嬉し涙を知りました
羊は初めて、愛されることを知りました
強いんだから頑張りなさいと肩を叩かれる事は何度も経験したけれど、
弱いままでいいんだと羊を抱きしめてくれた事は初めてでした
羊は仮面を半分かぶったまま狼に尋ねました
「・・・・・仮面をかぶっている私は嫌い?」
「嫌いじゃないよ?だけど羊のままの君はもっと、好き」
狼がそう言って少し照れた風に笑うと、羊も幸せそうに笑い言いました
「私も、ありのままのあなたが好きよ」
羊は狼の仮面を取り、二度とつけることはありませんでした



悲しいことが何度起こっても
涙を忘れないで 笑顔を忘れないで
泣くことを恐がらないで 笑うことを怖れないで
あなた自身を偽らないで
あなたのままのあなたが、1番輝いているんだから
ほら、目開けて
もうあなたのままで、いいんだよ

 

 

 

 

 

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